幼稚園文化にカルチャーショック−保育園との違いに驚き

 私の息子(5歳)は、生後5ヶ月から4歳まで認可保育園に通っていました。そこは、保育者と保護者らによる保育運動の結果1995年にできたばかりの、60人定員の小規模な保育園でした。小さいながらも、保育者と父母ら保護者が力を合わせて、理想の保育を目指していましたし、保護者会には父親も母親も共に参加していました。また、給食とおやつは園内の給食室で作っており、子どもたちは温かい昼食、作りたてのおやつを毎日食べることができました。昼食は和食中心で、ご飯は栄養価の高い五分搗き米のご飯でした。
 私たちは今年(2004年)4月に、関西から関東へ引っ越しました。あいにく保育園の入園手続きが間に合わず、息子は私立幼稚園の年長組に編入することになりました。そして私は、幼稚園文化に初めて接し、カルチャーショックを受けました。(なお、世の中には様々な幼稚園や保育園があります。これは私が体験した幼稚園と保育園の印象にすぎません。)
 まず、幼稚園には給食室がありません。子どもたちは、できたての昼食や手作りおやつを食べられません。その代わりに、幼稚園では昼食には宅配弁当を、おやつには市販のせんべいやクッキーを子どもたちに食べさせています。幼稚園には給食室設置が義務づけられていないので(保育園には義務づけられいる)仕方がないのですが、親としては残念でなりません。最近、「食育」の大切さが叫ばれているのだから、給食室を設置したらよいのにと思います。給食室があれば、子どもたちは温かい昼食を食べることができるし、さらに食材を見たり触ったりできるし、また調理の体験学習も可能となるので、「食育」に大いに役立つと思うからです。
 それから、幼稚園はお昼寝がありません。保育園では、乳幼児の発育のためには昼寝が大切との考えで、2時間昼寝をさせています。一方、幼稚園では、正規授業は午後2時に終了するのでお昼寝は(帰宅後に家で昼寝をすればよいので)必要なかったのかもしれません。しかし、近年では、幼稚園でも延長保育が実施されているし、さらには2時すぎから園舎内で「英語教室」や「サッカー教室」など様々なお稽古事が実施されています。年少から年長(3歳〜6歳)までの幼児がいるのですが、延長保育やお稽古事に参加する子どもたちはお昼寝ができません。息子は、毎日延長保育をして頂いていますが、昼寝ができないので(頼んでも昼寝はさせて頂けませんでした。どうやら、昼寝のできる部屋が確保できないようです)、毎日眠そうです。でも息子は年長児なので(来年は小学生ですから)、眠くても我慢させればいいとあきらめていますが、年少とか年中の子どもも昼寝をしなくてよいのか疑問です。どうして、同じ幼児でも、保育園では昼寝が大切とされるのに、幼稚園では昼寝ができないのでしょうか?幼稚園は、延長保育を行なうなど「保育園化」しているのに、昼寝についてみるだけでも、両者の考え方が全く違います。
 それから、園と保護者との関係のあり方です。幼稚園では保護者会や親子遠足が平日に開催されることが多いので、保護者は母親しか参加できません。保護者と担任との面談も平日昼間です。平日昼間に幼稚園の行事が開催されるのは、園の都合(休日出勤しなくてよいから)なのかと、勘ぐってしまいます。それだけでなく、保護者主催の親睦会も平日昼間に開催されるので、こちらも母親しか参加できません。どうも、幼稚園側も保護者側も、父親の育児参加を最初から期待していないようです。保育園では、父親も母親も、時には祖父母も、保護者会や保育園の行事に参加してきましたので、私は大きなカルチャーショックを受けました。
 また、私は、幼稚園で配られている全日私幼連の「PTAしんぶん」にもカルチャーショックを受けました。そこに登場する保護者は母親ばかりです。どうやら、幼稚園では子育ては母親の役割だと考えられているようです。そして私は、2004年5月号の提唱する父親像には驚きを隠せませんでした。育児に参加するような「慈母のように優しい」父親ではなく、「男親らしくびしっと叱ってくれる」厳しい父親が望ましいとされているのです。幼稚園の世界では、「慈母のように優しい」育児をする女性、「びしっと叱ってくれる」働く男性という役割分担が期待されているのでしょうか。男女共同参画社会基本法では、男らしさや女らしさの慣習に縛られない社会の実現を目指すべきとされているのに、こう正面切って「父性の復権」を唱えられると「あーあ」と思ってしまいます。でも、どうして、育児に参加する父親、あるいは優しい父親はダメなのでしょうか。
 私は、初めて幼稚園文化に接してショックを感じました。でも、今まで知らなかった世界を見ることができ、女性史・文化人類学民俗学の研究者として得難い体験ができたと思っています。