代理出産について思うこと

 代理母が産んだ子どもの出生届受理をめぐってタレントの向井亜紀さん夫妻が裁判を起こしたこと、そして、閉経後の女性が娘のために代理出産したという衝撃的なニュースによって、現在、代理母の是非に関する議論が起きています。そして、病気によって子宮を失った場合など代理出産以外には実子を得る手段がない場合には、代理出産を認めるべきだろうという意見も多いようです。向井さんも病気によって子宮を失っていたそうです。また、諏訪の根津医師もそうした意見に賛成し、医師会で禁止されているにもかかわらず、代理出産を手がけています。閉経後の実母が娘のために代理出産したのは根津さんの病院でした。
 しかし、これまでの議論では、代理出産がいとも簡単にできるという印象を人々に与えているのではないかと危惧します。代理出産には、代理母卵子と依頼夫婦側の精子を人工授精させる場合や、依頼夫婦の受精卵を代理母の子宮に入れる方法などがありますが、成功率はそんなに高くないのです。不妊治療(人工授精、体外受精など)の成功率が低いことは知られていますが、代理出産も同様といえます。ホームページによると、向井さん夫婦は自分たちの受精卵を用いたそうですが、二度失敗を繰り返し、二人目の代理母によって代理出産がやっと成功したのだそうです(そのため多額の費用もかかったそうです)。
 こうしたことから、代理出産を引き受ける女性は、受精卵を着床させ出産を成功させるために行われる「治療」による肉体的な苦痛を強いられるだけではなく、「治療」による時間的そして経済的な痛手、そして「いつ成功するのか」という精神的不安を背負うことになりかねません。それは、不妊治療を受けている女性と同様の苦しみと言えるかもしれません。もちろん出産自体もリスクが伴います。そして、運良く出産できた場合には、子どもを依頼夫婦に引き渡さねばなりません。こうした事情から、代理母(および家族)と依頼夫婦との間に、子どもの引き渡し拒否や、何らかのわだかまりが生じる場合も少なくないようです。根津医師はその点を認め、問題が一番起きにくいのが実母による代理出産だと語っています。
 私は、代理出産の是非を論じる前に、代理出産の実情を人々に公表する必要があると感じています。もちろん、将来、医療が進歩して、代理出産が簡単に成功するようになったり、「人工子宮」ができれば問題がなくなるわけではないと思います。しかし、現時点では、代理出産はそんなに簡単に成功するものではないこと、そして代理母(および家族)に様々な苦痛を与える可能性が大きいことを知る必要があると思っています。